兵庫県立男女共同参画センター・イーブン

【10/12(木)】第27期男女共同参画アドバイザー養成塾 公開講座/男女共同参画セミナー
「離婚に潜むジェンダー不平等と法整備~親権、養育費、財産分与などの現状と解決が急がれる課題~」を開催しました!

男女共同参画

[開催報告男女共同参画セミナー男女共同参画アドバイザー養成塾終了セミナー]

【10/12(木)】第27期男女共同参画アドバイザー養成塾 公開講座/男女共同参画セミナー
「離婚に潜むジェンダー不平等と法整備~親権、養育費、財産分与などの現状と解決が急がれる課題~」を開催しました!

開催日:
10月12日(木)10:30~12:30
 このセミナーは、第27期男女共同参画アドバイザー養成塾の第17回講座を公開したものです。
 市民共同法律事務所・弁護士の吉田容子(よしだようこ)さんをお招きし、男女共同参画アドバイザー養成塾公開講座/男女共同参画セミナー「離婚に潜むジェンダー不平等と法整備~親権、養育費、財産分与などの現状と解決が急がれる課題~」を開催しました。
 この講座で、吉田さんは、近年の離婚の状況、離婚時に問題となる親権、養育費、財産分与などの実態とそれらがもたらす利益・不利益を詳細に解説くださるとともに、法整備が必ずしも現状を踏まえたものではなく、ジェンダー不平等を生み出しかねない実態と今後の課題について、判りやすくお話しくださいました。
 公開講座は、上記のもようを YouTube Live によるオンライン講座としてライブ配信したものです。
 受講生からは、「離婚の手続きは誰の視点で誰のために法律的な解釈がなされるべきかが大切だということがわかりました」「共同親権の難しさ、いろんな立場からみることの必要性などを学びました」「日々の生活に深く関係していることを学べたとともに、子どもたちにも身近な法律を知ってもらう機会を作っていきたいです」等の感想があり、ジェンダー不平等の実態を踏まえて現況を理解し、法整備を注意深く見守る必要性を知ることができた意義深い講座となりました。
    <写真1 離婚の種別と実態 その一>
     法律において「離婚」とは何かを説明します。「離婚」は、当事者の身分事項(=婚姻関係)の変更にあたりますから、一定の手続きが必要になります。離婚の種別というのは、この手続きのことで、①協議離婚、②調停離婚、③審判離婚、④和解離婚、⑤判決離婚の5種類があり、それぞれ離婚が成立する(=婚姻関係が解消される)には具体的な要件をともないます。①②④は当事者の明示の合意に基づいて成立するものです。①では、協議とはいうものの実質的な協議は要件となっておらず、合意に基づいて協議離婚の届出がなされれば受理されます。離婚全体の88%を占めます。②と④は当事者の合意を証すること=不服ないことが確認されなければならないので、成立時には本人が出席することが要件となります。③⑤は、当事者の合意がなく、離婚を望む一方の当事者が裁判所に申し立てて(若しくは公訴して)するものです。③は当事者の事実上の合意を裁判所が認定するもので、例えばDVで婚姻関係を解消することにより一方の安全を保障する必要があるような場合が考えられます。⑤は民法770条所定の事由(※1)が必要となります(左)。
     離婚は2012年の約29万組をピークに減少傾向にあり、2020年には約19万3千組まで減少していますが、これは離婚しなくなったのでなく結婚の減少にともなって婚姻数が減少しているためであり、結婚した3組のうち1組は離婚していると考えられます。そこで、離婚したカップルの婚姻生活に注目すると、同居期間が5年未満で離婚する割合は低下しているのに対し同居期間20年以上で離婚する割合は上昇しており、2020年には離婚のうち21.5%が同居期間20年以上のカップルでした。また離婚したカップルに未成年(18歳未満=17歳以下)の子どもがいる割合は、2020年で57.6%とほぼ6割を数え、離婚に際して親権者指定や面会交流が争点になります(右)。
    ※1 ①不貞行為、②悪意の遺棄、③3年以上の生死不明、④強度の精神病で回復の見込みがないこと、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由 離婚の大部分は⑤の事由によるものです。なお、④は差別にあたるので、現に事由として使われておらず、改正時に削除されると思われます。
    民法(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089 を参照。
    <写真2 離婚の種別と実態 その二>
     ③の審判離婚や⑤の判決離婚は併せても2%程度ですが、この場合に裁判所が離婚を認める根拠は、婚姻関係を継続することが困難な事由が存在することで、その有力な証拠が実質的に婚姻関係が破綻していることを示すものとしての「別居」になります。したがって、離婚が成立する前には別居していることが多いわけです。なお、家庭内別居というのは、婚姻関係が破綻しているとは認められにくいので、必ず居所を別つ必要があります。弁護士が離婚の相談を受けたときに「別居しなさい」というのは証拠を固めるためでもあり、こうした助言は、不和・緊張・争いの中で同居し子を養育するのは、子も親も精神的に大きな負担になり、将来にトラウマをのこす恐れもありこと、さらに別居により、経済的に自立することが将来を冷静に考えることにもつながるからです(左)。
     そこで、この講座では、◇財産分与、◇慰謝料、◇年金分割、◇親権者指定(18歳未満の子がいる場合)、◇面会交流(適切な場合)、◇養育費(子が独立生計を営めない場合)、婚姻費用分担 の7点について、ジェンダー不平等と法整備の状況を解説していきます(右)。
    <写真3 親権と監護権>
     受講生の皆さんが、この講座で最も聴きたかったであろう「共同親権」について、話していこうと思います。そのためには、まず「親権」と「監護権」というものを理解しておかなければなりません。
     まず「親権」とは「子の財産を適正に管理し、必要な場合に子を代理する活動」を行う権能(「狭義の親権」と言ったりします)であり、「監護権」とは「子が独立の社会人として生きていく力をつけるよう、子を心身両面からケアしつつ養い、知的身体的社会的な能力を引き出し延ばすための活動」を行う権能を指します。ここで重要なことは、親「権」、監護「権」などと、「権」というコトバを使っていることから、親の「権利」と勘違いしてはいけないということです。「権利」ではなく、親の子に対する「義務」であり「責任」であることをシッカリと認識しなければなりません。
     では、なぜ「権」というコトバを使うかというと、現代の民法は、まだまだ明治民法の用語をそのまま使用しており、確かに明治民法では「親権」は「親(おや)」の子に対する支配「権(けん)」という意味での「親権(おやけん)」であったし、子に何を命じどのように扱うかという親独自の権利であったからです。しかし、戦後、民法は変わりましたし、親の子に対する独自の権利は存在しないというのが法律家の共通認識であり、特に「権」というコトバを意識するなら、例えは悪いが、子が連れ去られたり、誘拐されたりしようとするときに、そうさせない「権利」であると言えます。
     したがって、離婚を焦点として語られる「親権」とは、「監護」が重要であり、「狭義の親権」の出番は広くない(=子が独立した社会人として成人するようであれば、親に代理される必要がない)と考えられており、離婚後単独親権制のもと、離婚時、監護の適任者を親権者に指定しているのです。
     現在、7割、8割が母親が親権者に指定されている状況となっていますが、これは、母親の方が年少の子の状況を子の顔色や反応をつぶさに観察し健康状態や心理状況を察知することができると考えられているからですが、父親にはそうしたことができないのかというと、必ずしもそういった判断が正しいとはいえないだろうし、こうしたところに、性別役割にまつわる固定観念やジェンダー不平等が潜んでいると言えるでしょう。
    <写真4 離婚後共同親権と法整備の問題点 その一>
     離婚後共同親権とは、離婚後に子と同居する親(同居親)と別居する親(別居親)の両方の親の同意がないと子育ての決定ができない仕組みのことを言います。ふつう同居親は子どもの意見を聴いたりして子育てをどうするか考えるが、別居親が反対したら何もできなくなる、つまり別居親に拒否権があることを意味しています。子育てには日常のふつうに起こりうる場面で親の同意を求められることがあり、例えば、修学旅行に行くか(学校)、手術を受けていいか(病院)、交通事故で示談していいか(警察)など、単独親権なら同居親がサインすればよいさまざまな場面で、別居親の同意も必要な状況を想像すると、共同親権というのはたいへん面倒で煩雑な制度だと言えます(左)。
     法制審議会家族法制部会・舞台資料30(たたき台 ※1)では、親権を行使する父母について、A:単独親権、B:監護者指定型共同親権、C:監護者非指定型共同親権の3つの場合を想定し、関係規定を検討しています。いずれのかたちで親権を行使する場合も、離婚時の父母の「真摯な合意」により「共同」にできるとしているものの、合意の真摯性をどのように確認するかについては検討されていません。そこで、Cの場合=父母双方が親権者となり、監護者または監護の分掌(分担)について定めなかった場合を考えると、別居親の同意がない場合は親権を行使できないことになります。そこで、一方の親が単独で親権を行使できる例外として、①他の一方が親権を行うことができないとき、②子の利益のため急迫の事情があるとき を規定しようとしていますが、①は問題ありませんが、②の「急迫の事情」とはどのような状況かが示されておらず、例えば離婚が成立していない状況で、DV(急迫の事情)で子づれ別居した親が親権を行使したことに対して、もう一方の親が子の連れ去りを主張してその親権の行使を無効だと訴えるというような状況では、離婚を成立させることすらできないのではないか、言い換えればCの場合の共同親権というのは、父母が同居しながら離婚を成立させられるような場合にありえるかたちであって、②の例外と矛盾すると考えられます(右)。
    ※1 法制審議会家族法制部会第30回会議(令和5年8月29日開催) https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00340.html から、資料のダウンロードができます。
    <写真5 離婚後共同親権と法整備の問題点 その二>
     たたき台では、また「親権を行う父母は、監護及び教育に関する日常の行為を単独で行うことができる」と規定しようとしていますが、日常の行為とは何かという線引きの検討が十分になされていません。つまり子の修学旅行参加に対する同意は日常の行為なのかそうではないのか、中学受験の受験校の選択は日常の行為なのかそうではないのか、といった学校が親の同意を求める行為の一つ一つについて、日常性の検討が十分ではありません。さらに「特定の事項に係る親権の行使について、父母の協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権を父母の一方が単独で行うことができる旨を定めることができる」と規定しようとしていますが、まず「特定の事項」とは何かといった具体事例の検討が不十分であるほか、父母双方の判断が違ったときに、裁判所が決めるというのは解決しなければならない事件数は膨大なものになり、現実的ではありません。共同親権というのは、何でも共同でやりましょうという制度ですが、監護者を決めない場合は、何もできないことになってしまいます(左)。
     では、監護者を決めた場合、つまりBの場合の共同親権の行使はどういうものになるでしょうか。たたき台は「非監護者の親権を行う父母は、監護者の行為を妨げない限度で、監護及び教育に関する日常の行為を行うことができるものとする」と規定しようとしています。ここでもまた「妨げない限度」とはどのような程度で、誰が判断するのかが検討されていませんし、監護者の同意のない状況で、非監護者が「妨げない限度」だとして、してしまった親権の行使に対して、監護者に実効的な対抗手段(行為の取り消し等)があるのか、取り返しの利かない行為に対する賠償を求めることができるのか、監護者と非監護者の判断が矛盾する行為に巻き込まれた学校や医療機関はどうなるのか、どうすればいいのか というったことが示されていません。また、現行法上の協議離婚においては、離婚後の親権者の定めをしなければなりませんが、たたき台では「父母は、(親権者指定の)審判又は調停の申立てをしていれば、親権者の定めをしなくても、協議上の離婚をすることができる」ことを提案しており、これはDV被害者の救済を視野に入れた提案だとしているが、この提案どおりの協議離婚が成立した場合、離婚後も親権・監護権に関する争いが延々と続くことになります(右)。
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